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ミシガンの老婦人 (第2章)

アメリカでは、一般的にボランティア活動が人々の生活の中に根付いている。
人々は、日々の中で当り前のようにその活動に参加している。
特に、中流階級以上や知識階級の間では、そういう社会参加をして初めて一人前として
認知されるということが、暗黙の了解となっているようだ。

デイヴィッド・リンチ監督の「ツイン・ピークス」の中でも、ドラッグとセックスに溺れて、
乱れた生活を送っていたローラ・パーマーが、昼間は病人や老人のために食事を配給する
ボランティア活動をしている様子が描かれている。 彼女は、その時にブラック・ロッジの
住人たちと出会うことになる訳で、彼女にとってそのボランティア活動が運命の結末へと
導かれていく決定的な道筋だった。


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                【 ダイアン、僕は今、ミシガンの話を聞いている。 】


医学の本質は、病気や怪我をした人を治す現場にある。
そして、研究の分野は、そういう現場を支えるためにある。

日本にいた時、彼は週末の健康診断のアルバイトのことを、自分たち夫婦のために
マンションを買い与えてくれた義理の両親への返済のためだよ、と笑って話していた。
でも、本当は、現場から離れた顕微鏡の世界にいると大事なことを忘れてしまうから、
穏やかな臨床の現場への接点を求めたのだろう、と俺は思った。
きっと、無意識のうちに、そうやって自分の中でバランスを保とうとしていたのだ。

そのように休日も休むことなく働くという下地があったせいもあり、アメリカでも
誘われるまま、彼はボランティアをするようになった。
研究室の同僚の紹介で、大学の近くにある動物病院を無償で手伝うようになった。


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               【 それって、ワーカホリックって言うんじゃない? 】


動物病院は予想外に忙しかった。 スタッフはみな昼食をゆっくりとる時間もなく、
誰かが買ってきてくれたファストフードを立ったまま齧りながら、午後の診察の
事前打ち合わせをしていることも珍しくないような感じだった。

彼はもちろん直接診療にたずさわることはできなかったので、代わりにいろんな雑用を
進んで引き受けた。 やることはいくらでもあった。

病院にはいろんな動物がやってくる。 犬や猫はもちろん、鳥や爬虫類、珍しい哺乳類も
やってきた。 動物には元々興味はなかったし、それは今も変わらない。
だから、人々がなぜそんなにいろんな種類の動物を飼うのかさっぱりわからなかったが、
ミシガン州は動物福祉のための法律が他州よりも進んでいて、市民の動物への意識が
高いのかもしれない、と思った。


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                          【 病院は嫌い。 】



1月の中旬に、足を怪我した猫がやってきた。 飼い主のいない、野良猫だった。
左後ろ足を骨折していて、汚れていて、痩せていた。 
どういう経緯で連れてこられたのかわからない。 いつものように空いた時間に
病院に顔を出すと、既に処置が終わって、診療室の片隅のケージに入れられていた。

その猫は、少し変わった毛色をしていた。 四肢と腹は普通に白だが、背中から肩に
かけてが灰色に薄い青色を混ぜたような、白っぱいセルリアンブルーだった。

この病院には時々こうやって身寄りのない動物が保護されることから、地元の
コミュニティー紙が不定期に取材にやってきて、そういう動物たちの情報を紙面に載せる。
そして、その小さな新聞は無料で希望する家庭に配布される。


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                        【 珍しい色の猫だね。 】


ある日、病院に電話がかかってきて、たまたま彼がそれを受けた。
電話の相手は、か細い小さな声の女性だった。

彼の英会話力の向上はあまりはかばかしいとは言えなかったし、アメリカの電話の
通話品質も特に彼の不足を補ってくれるほど上質という訳でもなかった。
どうやら、例の猫の話をしていて譲ってほしいと言っているようだが、なにぶん相手の声が
小さくて細かいところまで話が理解できない。 そこで、直接会ってお話を伺います、と
いうことになった。

ミシガン州は日本の北海道と同じくらいの緯度で、真冬の平均気温は氷点下になる。
寒い雪道を歩いて教えられた住所の家を訪ねると、杖をついた白髪の老婦人が
彼を出迎えてくれた。


(次回に続く)




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Comment

ひろ

リアノンさん、おはようございます!

いよいよミシガンの老婦人の登場ですね。そして来週に続くのですね。。。
日本ではボランティアってまだ特別のことのように思ってしまいますが、海外では当たり前なんですね。身辺が落ち着いたのでボランティアをやりたいなと考えていましたが、行動に移さないのはダメと反省。

「ダイアン、僕は今、ミシガンの話を聞いている。」
ウケました。
  • URL
  • 2013/03/03 10:27
  • Edit

リアノン

ひろさん、こんにちは。

なんだかまた長くなってしまって、止む無く途中で切り上げました。
早く終わらせないとな、と思ってはいるのですが・・・

ところで、ダイアンって、一体誰なんでしょう。

  • URL
  • 2013/03/03 17:24

ひろ

リアノンさん、
楽しく読んでますのでゆっくり書いて下さい〜。
ダイアンは秘書みたいです。一緒なところを見聞きしたことはないですが。。。
  • URL
  • 2013/03/03 18:16

カバ丸1号

リアノンさんこんにちわ
何だか、小説を読んでいるようで・・
続きがとても気になります。
そして・・楽しみ。
  • URL
  • 2013/03/05 12:46

きゃぴばば

こんばんは。ご無沙汰しててスミマセン..

で? で? どうなりました??

もう 気になって気になって。

骨折した野良猫さん どんなに不安やったでしょう。
飛んで行って抱きしめてあげたいですっっ
  • URL
  • 2013/03/05 19:34

シオ

こんばんは。

続きがとても楽しみです。
皆様が言うとおり、小説みたいです。
すごいです!
  • URL
  • 2013/03/05 22:26

リアノン

カバ丸1号さん、こんばんは。

続き、あまり期待しないほうがいいです。
特に、どうってことのない話です。

ただ、私がこの連作で本当に描きたいのは話の内容そのものではないので、
楽しんで頂けているのであれば、ある意味、よかったです。

  • URL
  • 2013/03/05 22:37

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • 2013/03/05 22:40

リアノン

きゃぴばばさん、こんばんは。

そ、そんなに鼻息荒いと、猫がビビッてしまいます・・・・

痛い脚を引きずって、寒い外の世界に生きてたなんて、かわいそうですよね。
どういう経緯で保護されたのかはわかりませんが、病院に連れてきてもらえて
本当によかったと思います。


  • URL
  • 2013/03/05 22:44

リアノン

シオさん、こんばんは。

続きを楽しみして頂けるのはありがたいですが、
話の内容自体は、別にたいした内容ではないんです・・・・
がっかりさせてしまったら、ごめんなさい。

純血種の猫って、完全に大人になるまでには少し時間がかかるようですね。
2年とか、2年半とか。
だから、もうちょっと大きくなるかもしれませんよ。
今度、お名前なども教えて頂けると嬉しいです。

病理ですか、私の友達と同じ系統、ということなんですね、きっと。
私は素人なので、不正確なのかもしれませんが・・・・

医療関係のお仕事は、勤務時間が長かったり不規則だったりで、大変だと聞きます。 
猫さんのためにも、無理をせず、ぼちぼちがんばってください。
このブログも、無理のない範囲での、ぼちぼち更新です。

  • URL
  • 2013/03/05 23:29

kakobox

ミシガンの…とつくところがこのお話に惹かれるところですね。

ボランティア活動と、動物福祉への姿勢は、その国の文化の目盛りだと私は思います。
日本も、個々に頑張っていらっしゃる方がたくさんいるのに、国や行政がそれを統括、協力、援助できないことが残念。
個々のボランティア団体の方の努力を、国家がなし崩しにしているように感じます。
東日本大震災の時のことだって、企業が有給休暇を与えてまで社員をボランティア活動に参加させたあの良い流れを、その後、システム化することができなかったですよね。

「この病院には時々こうやって身寄りのない動物が保護されることから、地元の
コミュニティー紙が不定期に取材にやってきて、そういう動物たちの情報を紙面に載せる。
そして、その小さな新聞は無料で希望する家庭に配布される。」

すばらしい。
そうですよ、情報誌として配布するって手段があるんですよね。
各保健所、ボランティア団体さんは、保護されている猫ちゃんワンちゃんの情報誌を、ポストに投函、配布すればいいのに。
そんなお金も時間もないのが実情ですね。

レオ君の香箱座りは珍しいですね。
洋猫さんに香箱座りはできないって、あれはどこから聞いたうわさだったのでしょう。
レオ君、尻尾まで折りたたんで完璧ですね。
「珍しいい色の猫だね」と、振り返るレオ君、好きだわ~。
じっと見つめる先には、大好きなリアノンさんがいるのですよね。
うれしくなりませんか?この目を見ると…。

リアノン

kakoboxさん、こんにちは。

ネット全盛の時代の盲点が、お年寄りです。
ネットを見れる人より、見れない人のほうが数は多いでしょう。
昔ながらのタウン紙やコミュニティー紙が、その穴を埋めてくれます。

レオは、こうやっていつだって私を見ています。
まるで、何かを探しているような、求めているような目です。

  • URL
  • 2013/03/16 17:10

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プロフィール

リアノン

Author:リアノン
独身男の一人暮らし。

猫と暮らしたくて、一人で寂しい思いをしている子を、と思い里親募集に申し込んだら、一方的に断られた。

一人暮らしの男に猫と暮らす資格はあるのか? 

これが、このブログのテーマです。

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